古き良き日本を描いた映画監督といいえば、巨匠、小津安二郎と相場が決まっておりますが、私は小津監督は、そりゃすごいとは思いますけど、少々、苦手です。あの、少し下から仰角で見上げるカメラアングルとか、人が喋るたびにパッパッと切り替わるカメラワークとか、街中を写すとき意味なく片隅に置いてあるガラス瓶とか、そういうのがなんだかホラー映画のように見えてしまい、今はホームドラマだけど、次のショットで全員、血まみれで座敷に倒れていたらどうしようなどあらぬことを考えてしまいます。いや、素晴らしい監督であることはもちろんなのですが、どこか「苦手」な部分があります。
「古き良き日本」など何とも手垢のついた言い方ですが、やはりそれがもっともしっくりくるのは成瀬巳喜男監督の一連の作品です。
成瀬映画の特徴は、出演者が全員ゆったり歩いてゆったり話すところです。これ見よがしにゆったりなのではなく、もう絶妙のスピード加減です。カメラアングルも特に奇をてらったところもありませんが、隅々まで神経がゆきとどいており、どの画面もとても美しいです。
そんな成瀬映画のいいところばかりをフランスの人がつなぎあわせた動画がありますので、いまyoutubeが視聴可能な方は、ごらんください。もうどうしていいか分からなくなるぐらい、しっとりした世界が展開されます。
(※ この動画は一度は見ておいて、決して損はないですよ!)
0:50 原節子が手紙をやぶって汽車の窓からそっと捨てるところ。いや~、美しいですね~。
1:50の三橋美智也と草笛光子が雨上がりの町を歩くところの歩くスピードがよいです。
こちら「乱れる」の予告編ですが、経済的には貧乏な世界を描いているにもかかわらず、なんともしっとりしています。それはきっと登場人物の歩くスピードや動きや話し方のおかげだと思います。いや~、いいですね~。
加齢臭にまみれた日常を忘れ、上品な気持ちになりたいときは、成瀬巳喜男の映画を見る、これでよいと思います。