顧客事例(事例広告)、導入事例、ユーザー事例の制作、コンサルティング

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顧客事例に限らず、商業文・宣伝文は、わかりやすく、読みやすく、できればおもしろく最後まで読ませられるものが望ましいとされています。

ところで、「わかりやすさ」「読みやすさ」「おもしろさ(=つづきはどうなるのだろうと思わせる力)」が優れている表現形態は、なんといってもマンガです。マンガの世界で作り込まれてきた「読ませるノウハウ」には、そのまま「読ませる文章づくり」に応用できるものが多くあります。

本記事では、数あるマンガのノウハウの中でも、もっとも応用価値が高いと筆者の考える、「メクリとヒキ」について解説いたします。

※ 本記事での画像掲載においては、著作権法が定める「引用」に該当するよう留意いたしましたが、引用方法に不適切な点を見出した関係者各位はお手数ですがこちらからご一報ください。ただちに適切処置いたします。

■ 「メクリとヒキ」とは。

マンガでは、ページをめくって見開きにしたときに、いちばん最初に目に入る右上のコマを「メクリゴマ」、最後に読む左下のコマを「ヒキゴマ」といいます。

以下、「映画に学ぶ魅せるマンガの作り方(堀江一郎)」より引用いたします。



 マンガでは「ヒキの強さ」が大切だといわれます。「次はどうなるんだろう?」と先が気になって、思わず次のページをめくってしまうような「ヒキゴマ」がなければ、マンガをおもしろく読むことはできません。ヒキゴマは、読者に夢中でページをめくらせるための、大切な原動力です。

 一方、メクリゴマは、次の場面を楽しみにしてページをめくった読者を、「あっ!」と驚かせるためにあります。

(「映画に学ぶ魅せるマンガの作り方」・堀江一郎 p102)


こちらは、メクリ・ヒキを意識していない構成と、それを意識した構成の違いです。



※ ここまでの画像および内容は、「映画に学ぶ魅せるマンガの作り方」堀江一郎 著から引用しています。この本は、マンガの書き方の参考書ですが、読ませる文章づくりに応用できる内容が満載です。読ませる文章を書きたい方には、購入をおすすめします。
映画に学ぶ魅せるマンガの作り方 購入ページ

■ 


では、実際のマンガ作品でメクリとヒキについて見ていきましょう。

これは、実在した20世紀初頭のアメリカの天才奇術師ハリー・フーディーニが、当時、世を賑わせていた自称・超能力者のペテンを暴くシーンです。

右上のメクリゴマの、超能力者が大仰に登場するシーンで読者の興味を惹きます。そして左下のヒキゴマでは、「待ってください」という一声がかかります。お約束の進行であっても、やはり先が気になります。


右上のメクリゴマは、前ページのヒキゴマ「待ってください」を引き継いでいます。声をかけてのは、自分の持っている時計の透視をさせたかったから、という「説明」がなされます。ヒキゴマは、またしても「じゃあ…、まさかこの男は?」というベタなセリフですが、しかし、有効です。

この作者の場合は、メクリゴマは、読者をアッと言わせるためではなく「驚かせ」ではなく、むしろ「説明」のために使っています。前ページのヒキゴマで提出された疑問に対して、次ページのメクリゴマで回答を示し、さらに、その見開き2ページでどんな話が展開するのかを、軽く予告(説明)しています。

話のクライマックスはむしろページ内の大ゴマで展開されます。つまり「メクリ → オチ → ヒキ」という三段展開になっています。


この見開きではメクリゴマは、前ページのヒキに対する説明としての機能しかありません。かわりに見開き三分のニを使って、主人公が結論を下しています。

しかし、このコマには依然として次のページへの「引き」があります。それは主人公の位置が画面左下にあり、目線はともかく顔は左を向いていることです。これにより、何となく読者に「まだ話は終わっていない」こと、次のページに何かがありそうだということが伝わります。


このページでは、メクリゴマは、前ページのヒキゴマの激情を、鎮静する役割を果たしています。そして次の3コマで、新たなテーマを提示し、左ページのヒキゴマで、話をとりあえず締めくくります。

以上、漫画におけるメクリとヒキを実際の作品を使って説明しました。このメクリとヒキは漫画における最も基本的なテクニックで、どんな漫画でも使われています。

この強力な技術を、文章づくりにも応用できないかというのが、本記事の主題です。


■ メクリとヒキを文章に応用してみる。


村中は、ふだん事例の文章を書くとき、この「メクリとヒキ」を意識しています。少しでも「わかりよい文章」「読ませる文章」に近づくようにと願ってのことです。

以下、経営コンサルティングの事例の文章を題材にして、解説します(文中の固有名詞や設定は架空のものです)。


◆ XYZファームによる現場調査

― XYZファームのコンサルティングはどのように進んだのでしょうか。

XYZファーム(中村さん)は、いきなり提案することはせず、まず「現状の調査」から着手しました。この現状調査というのが、従業員にヒアリングするといった小綺麗なことではなく、従業員がパンを焼く現場に、自分もエプロンをつけて、いっしょに作業をするという実際的なものだったので、驚きました。ただ、最初の頃は従業員にはあまり歓迎されなかったようですが。


インタビュー文では、各章の冒頭の質問が、漫画でいうメクリゴマの役割を果たします。ここでは、冒頭の黄背景の箇所、「XYZファームの…」という質問がそれです。この質問は、章全体に対し、「見出し」「問題提起」としても機能しています。この一行を読めば、つづく数行の文章に何が書いてあるかが分かります。いいかえれば、この質問の一行を通じて、読者は「話の地図」を入手できます。

赤背景の文、「XYZファーム(中村さん)は…」は、質問に対する回答、すなわちメクリに対するオチとなります。漫画と違い、事例にはエンタメ要素が希薄です。要するに、基本的には題材があまり面白くありません。それをふまえて、書き手が気をつけるべきことは、おもしろくないとしても、せめて読者をイライラさせないことです。

そのためには、質問(メクリ)には、次の文で、ただちに回答(オチ)をつけなければいけません。答はこの後の文でゆっくりと…というのは許されません。そんなダラダラした進行だと、読者は「おい、早く質問に答えろ」とイライラしてきます。

その後の文章は、質問への回答の「さらに詳しい説明」です。

章の最後の黄背景の箇所「ただ、最初の頃は従業員には…」は、漫画でいう「ヒキゴマ」に相当します。「最初の頃はあまり歓迎されなかった」と書いてあれば、どういう風に歓迎されなかったのかが何となく知りたくなります。これで「引いて」みたわけです。

■ 信頼を得るまでの生みの苦しみ

― 「最初は従業員に歓迎されなかった」とは具体的には。

現場の目から見ると、中村さんは、わたちたち経営層が送り込んだ「スパイ」に見えたようです。得体の知れないコンサルタントがエプロン付けてニコニコしながら乗り込んできたが、腹の中では何を考えているやら…、どうせ俺たちの欠点を見つけて、妙なレポートでも書くつもりなんだろう、経営層にチクるつもりなんだろう…ぐらいにも思われたようで、最初の頃は中村さんもずいぶんご苦労なさったようです。

しかし、その「疑惑の期間」をくぐり抜けた後は、従業員の中村さんへの信頼は揺るぎないものになりました。今思えば、初期のいざこざは「信頼を得るまでの生みの苦しみの期間」でした。

その後の支援では、様々な形で試行錯誤していただきましたが、最終的には「座学研修をするよりも、会議の途中で、いちいちXYZファームに口を差し挟んでもらうのが一番効果的」という結論に達しました。


冒頭の黄背景の質問(メクリ)では、前章のヒキで使った言葉を、カッコ(「」)で括って持ってきました。その後に「〜とは具体的には?」ということで、質問に変身させます。安易な手法ではありますが、簡単にメクリがつくれるので、村中は良く使います。

その後、赤背景のところでで回答(オチ)を、最後の黄背景の箇所で、つなぎ(ヒキ)を作っています。

■ 会議では経営層は発言禁止

― 「会議の途中でXYZファームが口を差し挟むのが一番効果的」といいますと?

最初は、「従業員が座学研修を通じて、企画立案や社内コミュニケーションの方法を学び、そこで学んだことを会議で実践する」という方法を取っていましたが、やや迂遠。もどかしさがありました。

それよりは、会議の途中で、発言した従業員に「つまづき」があったとき、すぐ中村さんに指摘していただき、その場で是正する方が、話が早く、学習効果も大きく、また会議の質も早期に(その場で)向上します。


ちなみに、中村さんからは、私たち経営層に対し、「(私が求めたとき以外は)会議で発言しないでください」と指示がありました。私たち経営層は、良いアイディアを思いついたとしても、それを発言することは許されません。ダメ出しなどもってのほかです。「アイディアは、経営層ではなく従業員が出す」というように、強制的に会議のルールを変えたのです。

会議の席では、経営層は口出しはしないという意志を明確に伝えるために、×点を書いたマスクを口につけたことさえありました。


またもや、前章のヒキの言葉を受けて、「〜といいますと?」をくっつけて質問にしています。我ながら安易だとは思いますが、このやり方しか思いつきませんでした。

この文では、回答(オチ)がちょっと長い。もう少し短く回答できた方がよかったです。最後の文は、あまりヒキにはしていません。文章にここでいったん区切りをつけたかったのです。



■ 漫画のメクリとヒキを文章に応用してみる(2)


次にIT導入事例でのメクリとヒキの応用について見ていきたいと思います。


■ SI会社を選定したときの「目のつけどころ」

― システム構築を依頼するSI会社を選定するにあたっての、「求めた要件(目のつけどころ)」を教えてください。

今回のシステム構築を依頼するSI企業への、「求めた要件」は、次のとおりです。

要件1. 「***********************の適切な構築」
当時の社内システム(情報系)は、***(オンプレミス)、***(クラウド)、**(オンプレミス・自社開発システム)の3種類でした。システム構築を依頼するSI企業には、この「オンプレミスとクラウドが混在する環境」においても、適切に***認証基盤を構築できることを求めました。

要件2. 「アプリケーションとシングルサインオンの両方の知識、技術」
***だけ、***だけ、あるいは****だけ詳しい会社なら、多くあります。しかし、今回のシステム構築を依頼するSI企業には、「***、***、***の全てをよく理解していること」、さらには「***、***など主要***アプリケーションについても十分な知識と技術があること」を求めました。

要件3.  「BYOD、自宅PCからの接続への対応」

(中略)

これらの要件(目のつけどころ)を想定した上で、はじめは従来から取引のある大手企業2社に提案を求めました。

しかし、残念ながら、どちらの会社の提案も、弊社が求める水準に達していませんでした。



■ ****がSI企業からの提案に望むこと

― 最初の2社の提案は、どの点が不十分だったのでしょうか。

2社の提案は、要件の一つである「 ****の『目指す業務のあり方』への理解」が不十分でした。

うち1社目からの提案は… (以下略)


冒頭の質問(メクリ)で、章の内容を予告しています。次の文章ですぐに回答(オチ)を与えます。

最後の最後で、「最初は、従来から取引のある大手SI会社に依頼を求めた」と書き、「しかし、どっちもダメだった」と締めくくります。ここで、読者には「え、大手なのに何でダメだったの?」と関心を持ってもらいたいわけです。

その次の章では、「最初の2社の提案は、どの点が不十分だったのでしょうか」と、前章のヒキで読者が感じたであろう疑問を、そのまま質問にしました。

顧客事例におけるインタビュアーの役割は、「読者の代弁者」です。読者が疑問に思ったことを、かわりに質問してあげるのが良いインタビュアーなのです。

■ まとめ


メクリとヒキは、どんな漫画にも必ずある基本的なテクニックです。この技法を文章に応用すると、「わかりやすく」かつ「読ませる」文章を書くことができます。ここでは、メクリとヒキの構造がはっきり分かりやすい題材を例にして説明しましたが、地味な文章の場合でも「メクリ → ヒキ」あるいは「メクリ → オチ → ヒキ」の構造を念頭におくと、良い文章が簡単に書けるようになります。

みなさまも、一度試してみることをおすすめします。


■ 参考情報: 演出術の宝庫、「栄光なき天才たち」


栄光なき天才たち 13 (ヤングジャンプコミックス)
この記事で紹介したハリーフーディーニの漫画は、1990年頃にヤングジャンプで連載された「栄光なき天才たち」の一編かから取った物です。

「栄光なき天才たち」は一話完結の人物電機の形で、溢れる才能を持ちながら、世間に認められず不遇に終わった芸術やスポーツの天才たちの人生を描いたもので、20ページ〜30ページの掌編であるにも関わらず、ひとつひとつの作品がまるで短編映画であるかのように素晴らしい脚本とカメラワークと演出で作られています。

まんが作品を事例の文章の参考にするといっても、画力で魅せる作品や、荒唐無稽な設定の作品では、あまり参考になりません。しかしこの「栄光なき天才たち」のような、事実を元にし、そこから大幅に逸脱することは許されないが、しかし読者を惹きつけるために、筋運び、構成、演出を加える必要があるというドキュメンタリー作品は、顧客にインタビューした事実を「おはなし」に変換して語るという顧客事例と、構造が似ているので、その手法はとても参考になります。

「読ませる事例」、「おはなしとしての事例」を作りたいと考える方には、この「栄光なき天才たち」を読むことを推奨いたします。

とくにおすすめはこの記事でも大きく紹介した13巻の「ハリーフーディーニ」編です。残念ながらすでに絶版ですが、アマゾンを使えば150円で中古本を入手することができます。

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